民間治療と神頼みの日々

パニック障害を発症して、整形外科のほかに精神科の患者になってしまった私の痛みは、ますます悪化の一途をたどっていた。首から背中全体にかけて、ガラスの破片がぎっしり詰まっていて少しでも動くと激痛が走るような一種異様な痛みだった。後でわかったことだが、この手の痛みは線維筋痛症の患者さんの訴えにとてもよく似ている。もしかしたら、そのときすでにこの病気を発症していたのかもしれないが、当時の私はそんな理屈もわからず、なぜ治っていくはずの怪我がどんどんひどくなっていくのか不思議でしかたがなかった。 精神状態がとても不安定だったそのころの私が整形外科のドクターショッピングの次にはまっていったのは、民間治療と神頼みだった。         white bell

 一番先に試したのは、アロマセラピーと躁体法という自分で自分の体のゆがみを直していく民間療法だ。友人の薦めで始めたものだが、アロマセラピー自体はとても気持ちがよく、自分で体を動かしていく、という治療も悪いものではなかったものの、ほとんど痛みを止める効果がないのに、1回の治療費が1万円、しかも通いの先生に交通費を払う、という高額な治療費の負担に耐えられず、長くは続かなかった。ただ、この先生の、他の治療はやってはならない、といういいつけを守るために、長く通っていた接骨院の治療をやめる事になった。やめてみれば何のことはない、牽引やマッサージはやってもやらなくても何の効果もなかったことが身にしみてわかった。唯一最大の成果は、効いていなかった牽引を、効かない、と自覚してやめられたことだった。

 その次に試したのは、十字式健康法である。全国何箇所かの治療センターで、クリスチャンの施術者が体にはほとんど触れずに、背骨のずれを直す、というもの。雑誌で知っていったのだが、ほんの数秒で終わってしまった治療のあまりのあっけなさに、効果もわからないままやはり長続きはしなかった。けれども、ひとづだけこれでびっくりしたのは、私がいすに座っただけでまだどこが悪いとは一言も言っていないのに、「君の頚椎は左に曲がってしまっているね。ヘルニアもあるか?動かしなさい。リハビリで動かすしかないよ。」と背骨を見ただけでいったことである。レントゲンを取らないと、素人が外から見ただけで人目でわかることはあまりないと思っていたので、千里眼のようでこれには気味が悪いほど驚いてしまった。数秒の治療に2000円を払って帰ったが、痛みは取れた気はしなかった。

 続いてカイロプラクティックである。アメリカで免許を取ってきたドクターオブカイロプラクティックと呼ばれる先生を、すごい努力で捜し当て、おそるおそるいってみた。
結論からいうと、これは効いた!!!
首が固まってしまって、頚椎の関節としての可動域が制限されて機能が衰えていたものが、最初の5回の治療で劇的に動くようになって、亀の甲羅のようだった背中も異様な肩の痛みも相当改善された。奇跡のようで、クリニックで私はぽろぽろ涙をこぼした。随分マシになった痛みだが、しかし執拗な違和感や頭の重さや気分の悪さ、自律神経失調症状は、5回以上通っても完全にはとれなかった。相変わらず、果てしない不定愁訴に悩まされていることは同じだった。

ハリも気功もやってみた。友人に薦められたり、ネットでいいと聞いた事はすべてみなやった。人に薦められるまま、創価学会の会合に出てみたり、真如苑のお祈りをしてもらったり、クリスチャンの友達の祈祷会で祈ってもらったり。高額な治療器具(太陽光線治療器や交流磁気治療器など)を買い込んだのもこのころである。どれもこれも、そのときはちょっとだけマシになった気はしたが、次の朝起きると元どうりになっていた。日に日に体力が弱って衰弱していって、具合の悪さや精神状態の暗さがますます痛みを増幅する。まるで底なし沼にはまったようで、徐々に私は、人との交流をさけて引きこもるようになっていった。

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